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[翻訳][言語学] フィルモア「英語条件文における認識的構えと文法形式」(5)

チャールズ・フィルモアの条件文に関する論文を訳読しています: Charles Fillmore, "Epistemic stance and grammatical forms in English conditional sentences," Papers from 26th Regional Meeting of the Chicago Linguistic Society, vol. 1, Main session, 1990.  前回の第4節では,条件文の相対時と認識的構えを表記するかんたんな図法を導入しました.続く第5節では,その図法の組み合わせで表記できる条件文の意味をひととおりみていきます.  なお,今回のセクションはわりと長文になってます.ご注意ください. 5. 例証 この表記法のいちばんかんたんな例示方法では,確言的な条件文の 2つの要素 P と Q があって,ともに過去であり,P に Q が後続する.Figure 5 から 7 では,3つの例文 [24-26] で例示される状況タイプを表示してある.[fn.8] [24] (A) Because he left the door open, the dog escaped. (彼がドアを開けっ放しにしていたので,犬が逃げてしまった.) [25] (H) If he left the door open, the dog escaped. (彼がドアを開けっ放しにしていたのなら,犬は逃げてしまっている.) [26] (C) If he had left the door open, the dog would have escaped. (彼がドアを開けっ放しにしていたら,犬は逃げてしまっていただろう.) “A” タイプの文は,例文 [24] のように原因や説明を表したり,[27] のように時間関係を表したりする. [27] (A) When he opened the door, the dog escaped. (彼がドアを開けたとき,犬が逃げてしまった.) 大半の場合,問題となるのは仮定的構えや反事実的構えで表示される文だ.しかし,Akatsuka が気付かせてくれたように [fn.9],P で同定される状況が現実世界で真となっていると想定される条件文の文脈もときにみられる. 余談 1: “Q” の値.ここで提示するスキーマは全て,P が不在である(i.e., P を表す命題が偽となっている)ことを標示する下の列を含んでいる.しかし,多くの状況では Q が偽であることは当然視されているが,Q の値については無指定のままにしておく.時間的な “A” 文でも,Q の値についてはさまざまな想定がなされうる.ときとして,時間的な “A” 文でも節の2つの要素間に因果関係や一方が他方を可能にする関係が意図されていたり暗黙に理解されることがある.たとえば上記の [27] がこれにあたる.この文をいちばん単純に理解すると,彼がドアを開けなかったら犬は逃げなかったと信じることになる.しかし,[28] のような文はどうだろうか: [28] (A) When he opened the door, it started raining. (彼がドアを開けると,雨が降り出した.) この例は明らかに「時間的」な節であり,従属要素は主節の出来事の時間を限定しているにすぎない.これら2つの状況は Figure 8 と 9 の2つのスキーマで表示できる.(下段の “Q” を太字でグレーにしてあるのは,このように意味が定まることは文の字義通りの意味に含まれていないことを忘れないようにするため.) [28] に与えられる可能性が高いもっとも自然な解釈では,「彼」がドアを開けていないという点のみで代替世界は現実世界と異なり,どちらにしても同じ時点で雨は降り出したと受け取られる. 条件文に似た文のなかには,出来事 Q が出来事 P と独立であることが明示されることもある.たとえば “even” ではじまる譲歩文 [29] がこれにあたる.[fn.10] [29] Even if he had left the door shut, the dog (still) would have escaped. (彼がドアを閉めておいたとしても,(やっぱり)犬は逃げてしまっていただろう.) (この例では P は彼がドアを閉めておいた状況を指し示す.) しかし,Q が確言されるという非条件的な性質は “even” の一語が抜けている場合にも同じく可能で,それには,助動詞に高いピッチと追加の強勢が置かれ,それ以外をずっと低調で発音するか,あるいは後件の最初に STILL を(強勢を置いて高いピッチで)入れてやればいい.[fn.11] [30] If he had left the door shut, the dog (still) would have escaped! (彼がドアを開けっ放しにしていたとして,(やっぱり)犬は逃げていただろう!) 余談 2 : 静態述語と動態述語.現在とその代替について語ろうとすると,静態述語と動態述語を区別する必要があるのがすぐにわかる.[31] のような文では,いま現在「彼女」が「私」の近所に暮らしているかどうかが問題となる. [31] (H) If she lives here I’ll get a chance to meet her. (彼女がここに暮らしているなら出会いの機会があるだろう.) しかし例文 [32] では未来の可能性が語られる. [32] (H) If she moves here I’ll get a chance to meet her. (彼女がここに超してきたら出会いの機会ができるだろう.) これと同じ現在 vs. 未来の対比は叙想法の条件文にもみられる.たとえば [33-34] がそうだ. [33] (C) If she lived here I’d get a chance to meet her. (彼女がここに住んでいたら出会いの機会があるだろうになぁ.) [34] (C) If she moved here I’d get a chance to meet her. (彼女がここに超してきたら出会いの機会がやってくるだろうになぁ.) 前者は反事実(彼女がここに住んでいないことは当該の意味において確実に知ることができるので),後者は反予期(彼女がここに超してくることはなさそうだと予期はできるとはいえ,絶対確実にそうならないとは分からないので)となっている./ 余談終了 . P が過去で Q が未来の場合,Figure 11-13 でスキーマ化され [36-38] で例示されるような状況になる. [35] (A) Because you studied hard, you will pass the test. (一生懸命勉強したんだから,テストには受かるよ.) [36] (H) If you studied hard, you will pass the test. (一生懸命勉強したなら,テストには受かるよ.) [37] (C) If you studied hard, you would pass the test. (一生懸命勉強していたら,テストには受かるだろうにね.) P と Q がともに未来の場合,事情は少しばかりややこしくなる.未来がどうなるか確実に知ることはできないので「事実性」の構えには絶対確実に確信できない想定が含まれることとなるし,それは「反事実」の構えでも変わらない.こうした例では,因果的なつながりより時間的なつながりの方が「事実性」の構えにとって構築しやすい.文 [38-40] で例示される Figure 14-16 に注目. [38] (A) When you try it you’ll like it. (ためしたときには気に入るよ.) [39] (H) If you try it you’ll like it. (ためしたら気に入るよ.) [40] (C) If you tried it you’d like it. (試したら気に入るだろうに.) 例文 [38-39] は,時間節と条件節には未来について可能な表現で共通点があることを示している.現在時制で未来を合図することは Q でなく P を特徴づけているのだ. P が Q に先行するスキーマでは2つの間に因果関係を想定しやすい.言語によっては,条件文の意味にそうした理解を含めるのを明らかに要求するものもある.しかし,仮定的構えでは,P が Q に先行するのでなくこれに後続することも可能だ.その場合,未来に P が成立するにいたる世界では,過去に Q が成り立っているという意味になる.Figure 17 と例文 [41] を参照. [41] (H) If he gets better by tomorrow, we gave him the right medicine. (明日彼の具合がよくなっていれば,我々は正しい薬を投与したということだ.) この文では,因果関係は Q から P に向かっている.逆ではない.言語によっては,この関係を言い表すのに “If he gets better by tomorrow, we will know that we gave him the right medicine”(明日彼の具合がよくなったら,我々の投薬は正しかったのだとわかる)のような言い方をしなくてはならないものもある.しかし,英語では [41] のような文が許される.一般に,Eve Sweetser が「認識条件的」と呼ぶ意味をもつ条件文では動詞表現形式の決め手となるのは条件文であることではなく,それと独立の理由で決まる. 発話時が Q か P のいずれかと重なることは可能で,とくに P が Q に先行する場合はそうだ.例 [42-44] は Figure 18-20 にもとづいている. [42] (A) Because he moved to Berkeley he’s happy. (彼はバークレーに移ったので喜んでいる.) [43] (H) If he ate that stuff he’s dead. (あれを食べたのなら彼は死んでいる.) [44] (C) If you had listened to me you’d be rich. (ぼくの話を聞いてたらお金持ちになってるのにね.) 例文 [45-47] は Figure 21-23 で示されている構造を表している. [45] (A) Since you’re a member of our club you’ll be invited to the dance. (あなたはクラブの会員ですからダンスに招待されますよ.) [46] (H) If you’re a member of the club you’ll be invited to the dance. (あなたがクラブの会員ならダンスに招待されますよ.) [47] (C) If you were a member of the club you’d be invited to the dance. (あなたがクラブの会員だったらダンスに招待されるのですが.) また,P と Q がともに現在になることも可能だ.Figure 24-26 がこれを示しており,例文として [48-50] が挙げてある. [48] (A) Since he’s Harry’s friend, he’s my friend. (彼はハリーの友達だから,ぼくの友達でもある.) [49] (H) If he’s Harry’s friend, he’s my friend. (彼がハリーの友達なら,ぼくの友達でもある.) [50] (C) If he were Harry’s friend, he’d be my friend. (彼がハリーの友達だったら,ぼくの友達でもあるんだが.) あとの残りの図と例文は,たんに可能な組み合わせを埋めるためだけのものだ. [51] (A) Since he lived in Twin Pines he knew David. (ツイン・パインズに住んでいたので,彼はデイヴィッドを知っていた.) [52] (H) If he lived in Twin Pines he knew David. (ツイン・パインズにすんでいたなら,彼はデイヴィッドを知っていたのだろう.) [53] (C) If he had lived in Twin Pines he would have known David. (ツイン・パインズに住んでいたら,彼はデイヴィッドを知っていただろうけど.) [54] (A) When you understand what happened, you’ll appreciate me. (何が起きたか分かったときに,君はぼくに感謝するだろうね.) [55] (H) If you enjoy the concert, you’ll remember me. (コンサートを楽しんだら,ぼくのことを思い出すだろうね.) [56] (C) ?? If you were to enjoy the concert, you’d remember me. (コンサートを楽しむことになったりすれば,ぼくのことを思い出すだろうけどね.) 条件文には第4のクラスがある.これを「総称」と呼ぶことにしよう.総称の条件文では,発話時の特定の時点は問題にならない.総称の “Generic” を “G” と呼ぶとして,これは例文 [57-58] で例示される. [57] (G) If he says yes, she says no. (彼が「イエス」と言えば彼女は「ノー」と言う.) [58] (G) If he said yes, she said no. (彼が「イエス」と言ったら彼女は「ノー」と言った.) “G” には現在時制バージョンと過去時制バージョンの両方があることから,出来事 P と Q に相対的な発話時の位置にはなんらかのつながりがあるのがわかるが,この関係は計測できないとでも言うことができる.こうした文では法則・傾向・性質が記述される.上の列をオレンジにしてあるのは,たんに,話者が P と Q の共起を事実的だと想定していないことを示している.ただ,これが首尾一貫した表記法だとよそおうつもりはない.総称に解釈された条件文ではIF が WHEN や WHENEVER で置き換えれるという点に注意しておきたい. 脚注 [fn.8] 図の下に書かれた記号は図が提示しているのと同じ情報を表示する.2つの記号が直に並んでいる場合は2つが同時であることを表し,斜線で区切られている場合は2つが先後関係にあることを表す.記号 A, H, C は認識的構えを表し,記号列での位置は時間関係を表す. [fn.9] Akatsuka (1985, and 1986, pp. 339f) を参照. [fn.10] この議論に加えるべき譲歩的条件文の特徴の1つとして,文脈により与えられる “P” の予期はたいてい “not-Q” を帰結するということが挙げられる. [fn.11] 後件に STILL がない場合,EVEN IF 条件文が必ず not-P の世界で Q であることを必要とするとは言えなくなる.そのテストケースは,前件が尺度モデル(Fillmore, Kay & O’Conner 1988)の一点を表す場合で,状況 “not-P” はその尺度の低い点か高い点のいずれかを指し示す.これにあたるのは “Even if he had taken just a little, he would have died”(〔薬を〕ほんの少量摂取していても彼は死んでいただろう)のような種類の文だ.「彼」が少量摂取したという主張は,彼がまったく摂取していなかった状況(そして「彼」が死ななかったとき)か彼が大量に摂取した状況(そして「彼」が死んだ場合)のいずれかによって反証されうる.この論点は Seiko Yamaguchi, Kiki Nikiforidou, および Paul Kay に負う.

投稿日時: 2009-07-03 00:00:00 【ブログへ行く

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